先日、他病院の救急外来を見学する機会がありました。
そのときにいた患者さんは、
「30分ほど喋りにくくて、右手が動かなかった。」
という訴えで救急搬送された方でした。
このときは、
「ああ、TIAだ。入院だな。」
としか思っていませんでした。
TIAとは、Transient Ischemic Attackの略で、
一過性に脳の血流が低下すること(血栓による閉塞など)により
一過性に神経症状を認める病態です。
症状を認める間は脳梗塞と区別はできません。
TIAは脳梗塞発症の初期サインとも言えます。
しばらくしてからカルテをみると、
なんとこの患者さんが帰宅となっているではないですか。
しかも、診察していたのはぴちぴちの研修医ではなく、
熟練の脳神経外科医でした。
自分の知識が間違っていたのか、
もしくはTIA治療の見解が変わったのかと思い
脳卒中ガイドラインを読み直してみると、
TIAについてしっかり記載がありました。
以下、脳卒中診療ガイドライン2009より
『一過性脳虚血発作(TIA)を疑えば、可及的速やかに発症機序を確定し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに治療を開始しなくてはならない(グレードA)』
『TIAの急性期(発症48時間以内)の再発防止には、アスピリン160〜300mg/日の投与が推奨される(グレードA)』
と記載があり、
脳梗塞に準じて抗血小板療法を開始することで、
脳梗塞の発症が約80%軽減するとのことです。
新たに発表されたガイドライン2015では、
『発症早期の心原性脳塞栓症を除く、脳梗塞・TIAに対する亜急性期までの治療法として、抗血小板2剤併用が推奨される。(グレードB)』
と言われています。
ですので、TIA患者さんは、
原則、入院加療です。
重症度で判断すると考えられる方もいますので、
頻用されるリスク分類を記しておきます。
■ABCD2スコア
TIA患者で、2日以内に脳梗塞発症するリスク
を判断するためのスコアです。
A: Age(年齢)> 60歳(1点)
B:Blood pressure(血圧)>140/90mmHg(1点)
C:Clinical feature(臨床症状);
片麻痺(2点)、言語障害のみ(1点)
D1:Diabetes(糖尿病)(1点)
D2:Duration of symptoms(症状の持続時間);
10-59分(1点)、60分以上(2点)
合計0~7点で評価します。
0-3 点で1.0%、4-5点で4.1%、6-7点で8.1%であり、
4点以上の場合は、入院治療を開始すべきです。
■CHADS2スコア
非弁膜症性心房細動(NVAF)患者での、脳梗塞リスクの層別化です。
ガイドライン2015にはCHADS2スコアが明記されました。
C:Congestive heart failure(心不全)(1点)
H:Hypertension(高血圧)(1点)
A:Age(年齢)≧75歳(1点)
D:Diabetes Mellitus(糖尿病)(1点)
S:Stroke(脳卒中)/TIA、TIAの既往 (2点)
合計0~6点で評価します。
スコア別の年間脳梗塞発症率 は,
0点で1.9%、1点で2.8%、2点で4.0%
3 点で5.9%、4点で8.5%、5点で12.5%、6点で18.2%
0点は低リスク、1-2 点は中等度リスク、3-6点は高リスク
と言われていましたが、ガイドライン2015では、
2点以上:NOAC、もしくはワーファリン推奨(グレードA)
1点以上:NOAC推奨(グレードB)
となっています。
NOACはワーファリンと比較して、
・脳卒中発症予防効果は同等かそれ以上
・重大な出血発症率は同等かそれ以下
・頭蓋内出血は大幅に低下
という点で、NOACの方が推奨されています。
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